記事内容
機械稼働の実績把握と監視へのIoT活用ニーズ
町工場の生産性を向上させるための課題として、加工機械の稼働をより正確に管理する必要性を感じている企業様が、IoT(Internet of Things)の活用に関心を持たれていました。
こちらは(筆者が活動に参加している)NPO法人[1]が支援を行っている企業様でした。当コラム記事の内容は、このNPO法人のIoTプロジェクトの一員として活動した情報になります。
差し障りのない範囲の情報で、課題が生じている作業工程の状況をご説明します。大まかな作業の流れは次のようになります。
- 作業員が部材を加工機械にセットし、位置調整して機械を稼働させる
- 加工作業は無人で進み、作業終了すると機械は自動停止する
- 作業員は加工済の半製品を機械から取り外し、更に作業があれば1から繰り返す
これが1台の加工機械に対する作業員の対応になります。ご覧の通り、作業1と3は有人作業になりますが作業2は無人作業です。作業2と3の間の時間が長いと加工機械の稼働率が下がってしまうことになります。
作業員が1台の機械をずっと見ていられるのであれば時間のロスは殆ど発生しませんが、作業員はこの作業現場では複数の加工機械を担当しなければならないため、実際には加工機械が停止している時間が発生しています。
企業様では、こうした課題に対処するためのIoT活用に対して、大きく2つの期待をお持ちでした。
まず第1に
加工機械の稼働時間と停止時間をデータとして収集することにより、業務プロセスに対する改善活動の効果を客観的に評価することに役立てたい。
そして第2に
複数の加工機械の稼働状況を作業員が一覧で確認できるモニター画面を導入することで、作業員の更なる効率的・計画的な作業に役立てたい。
但し、IoT活用への期待は持ちながらも、直ぐに本格的なIoT導入を進めるお考えはなく、まずはIoT的にセンサーを使ってデータを収集し、そのデータを管理のために有効的に活用できるようにしたいとお考えでした。
稼働実績の把握にIoT手法が有効と示すデモを実施
企業様では、作業工程の実績管理を人(作業員)による報告を基に行っていました。より正確なデータを基にした管理とするためには、加工機械から直接データ収集することが望まれました。
しかしながら、対象となる加工機械は(昭和の時代の)レガシーな機械でした。デジタル要素はなく、データ出力機能などは全くありませんでした。
機械がデータを出力してくれないのであれば、機械の外部にセンサーを取り付けてデータ収集することにしました。
センサーを用いることによって、どの様なデータが収集できるのかを実感して頂く目的もあり、まずは別のコラム記事でご紹介した「センサーデータ収集ツール」を用いてデータ収集を行いました。
この後の話に関係しますので、上記コラム記事からツールの概念図を引用します。
機械にセンサーを設置することで、センサーデータをCSVファイルとして収集します。また、PC上のWebブラウザに表示される画面によって、センサーの数値をリアルタイムに確認することもできます。
今回の件では、加工機械の稼働中と停止中をデータから判別するために、機械から「どのセンサーを使用して、どのようにデータを収集するか」は、支援側でも試行錯誤しました。短時間のデータ収集作業を何度か実施させて頂きました。主なパターンは以下になります。
- 加工機械の筐体にセンサーを設置して加速度データを収集(振動から判定するため)
- 加工機械の操作ランプ付近にセンサーを設置して照度データを収集(ランプ状態から判定するため)
- 加工機械の移動パーツ部分にセンサーを設置して地磁気データを収集(移動動作から判定するため)
試した結果として、センサー設置の容易さ(多少大雑把な設置でも安定したデータ収集が可能であること)と、作業員の作業の邪魔にならないことなどを考慮して、加速度データの収集を採用して先に進めることにしました。
1台の加工機械の作業を対象に、3時間程度のデータ収集を行わせて頂きました。また、データ分析結果の正当性を検証するために、同時にビデオ撮影もさせて頂きました。
収集したデータ(CSVファイル)を基にグラフ作成を行い、データ結果を可視化しました。加工機械の振動の強弱がグラフに現れており、稼働中の時間と停止中の時間を読み取ることができます。勿論、ビデオ映像による検証の結果も問題ありませんでした。
こうした結果を企業様に報告しました。加工機械の稼働実績を管理する上で、IoT手法で収集したデータを活用する有効性を実感して頂きました。
稼働監視用モニター画面のプロトタイプ製作
こうして、加速度データを基に加工機械の稼働中と停止中を判定することができましたので、応用例として「複数の加工機械の稼働状況を作業員が一覧で確認できるモニター画面」について、イメージ合わせを目的としたデモを行うのため、モニター画面のプロトタイプ製作を行いました。デモ用モニター画面をご紹介します。
プロトタイプ製作は、「センサーデータ収集ツール」の仕組みにアドオンして画面を追加する形で行いました。デモのための今回限りの暫定的な構成という位置付けになります。
「稼働監視画面」では9台の機械の状況を表示する構成になっており、画面側のロジックは用意していたのですが、今回のデモではセンサーなどのハードウェアを用意する問題もあって1号機(の表示)のみを対象としてデモを行いました。
なお補足としまして、モニター画面のデモを目的としておりましたので、加工機械にセンサーを設置してはおらず、センサーを意図的に振動させることによってデモを行っています。
「稼働監視画面」では、以下の4種類のステータスと時間情報を合わせて表示することにより、対象機械の状態を伝えます。
- 停止状態
- 加工中
- 作業待ち
- 作業滞留中
作業に伴って画面表示がどの様に変化するのかを下図でご説明します。
- 機械の状態を①~⑤の画面表示により示す
- (作業開始前の)機械停止状態では①の表示
- 機械の稼働中は②の表示
- (作業開始後に)機械が停止すると③の表示
- 機械の停止後に一定時間(設定値)作業員が対応しないと④の表示
- 作業員が対応しない間は④の表示が続く
- 作業員が対応して作業再開(機械稼働)すると②の表示
- 画面上の「通知リセット」ボタンを押下すると⑤の表示(もう作業が無い場合など)
また、前述のように当画面はPC上のWebブラウザに表示されます。最近のWebブラウザは音声読み上げ機能を持っています(ChromeとFirefoxで確認)。これを利用して次のように女性の声でアナウンスします。
- 「〇号機、作業を終了しました」(③の表示に切り替わるタイミング)
- 「〇号機停止後〇分〇秒経過」(④の表示が続く間で、設定値毎の一定時間)
このように実際に動作するデモを見て頂きました。今回は既に製作済のアプリを下地としていたので短期間で準備することができました。しかしながら、この先に企業様が具体的に検討することを望まれた場合は、企業様の現場環境に合わせて最適なハードウェアやネットワークを選択した上で仕組みを設計し直す必要があるでしょう。
今回のデモはあくまでも「切っ掛け」ということになります。それでもデモによって企業様では「やりたいこと」のイメージを更に膨らませて頂けるでしょうし、支援側でもニーズの確認と掘り起こしに繋がりますので一定のメリットはあったと考えております。
なお余談ですが、今回の一連の対応から得た経験を基にして、レガシーな機械を対象とした可視化IoTデモを展示会出展しました。当コラム記事の企業様にも展示会を見て頂いて説明もさせて頂きました。
この記事のまとめ
- 機械稼働の実績把握と監視へのIoT活用ニーズを持った企業様を支援した
- IoT手法で収集したデータの活用が稼働実績の正確な把握を可能にすることを実感して頂いた
- 実際に動作するデモを見て頂くことで具体的イメージの共有が行えた