ICTイノベート
  • IT導入にも「お試し」が重要

  • IT導入にも「お試し」が重要
  • 公開2017/07/12  更新2024/10/08

  • IT導入によって経営力の向上や業務効率の改善といった成果を得るためには、お試し(事前のトライアル実施)が重要であると提言します。

記事内容

IT導入を成功に導くために

ITを導入する目的は経営力の向上、業務効率の改善といった成果を得るためです。そのような成果が実感できないのであれば、そのIT導入は無駄に終わったことになります。

誰しも無駄なことはしたくないでしょう。それでも昔からIT導入の失敗事例は数多く存在し、そうした情報を通してIT導入に対してネガティブな印象を持ってしまった方もいらっしゃるでしょう。

しかし、人は失敗から学ぶことができます。数多くの失敗事例は教訓として何を残したでしょうか。IT導入を成功へ導くためのノウハウとして多く語られているのは、以下のような趣旨の内容です。

「IT導入の前に、その目的を慎重に考え、テスト期間を設けて課題を把握してから導入する」

IT開発手法の変化

過去の失敗を糧にして改善する取り組みは、IT導入に向けた開発手法においても行われています。

「ウォーターフォール型開発」と言われる昔ながらの開発手法では、作業工程を時系列的に次のように分割します。

  1. 要件定義
  2. 概要設計
  3. 詳細設計
  4. 開発(プログラミングなど)
  5. テスト
  6. 運用

作業工程の進行は、前工程の完了を受けて次工程が開始されます。この手法では開発全体の進捗管理を安全に行うメリットがあります。

しかし、作業工程の初期段階で利用者にヒアリングをして要件定義に入った後、テストの段階になって利用者が実際に使用した結果、「使い辛い」「こんなはずではなかった」と評価される事態が起きてしまう場合があり、そうなると前の工程に戻って再設計や再開発が必要になります。

予定外の開発期間の延長や作業工数の追加が発生すれば、当初見積もっていたIT投資の規模を超えてしまう事態に陥ります。業務上、計画の変更が許されない場合は、せっかく導入したのに一部の機能だけ使用する形で運用に入ってしまった事例も存在します。とても無駄ですね。

利用者と開発者の間には誤解が生まれ易い
『利用者と開発者の間には誤解が生まれ易い』

このような事態に陥るのを避けることを目的とした開発手法では、開発対象を多数の小さな機能に分割して短期間でプロトタイプを開発し、早期に利用者へ提供して感想を反映することを反復しながら機能を完成させて行く方法を取ります。

よく目にするかもしれませんが、アジャイル型開発もこのような趣旨の開発手法になります。

開発手法の話には余り興味を持って貰えなかったかもしれませんね。ただ、ITを構築・提供する側も変化していることをお伝えしたかったのです。

トライアルを実施することの有効性

IT導入を成功に導くための話に戻りましょう。IT導入を無駄にしないためにトライアルを実施することの有効性をご説明する上で、IoTの導入検討を例にとりたいと思います。

IoT(Internet of Things)の導入検討においては、事前にPoC(Proof of Concept / 概念実証)[1]を実施することが有効とされています。こうした実証実験で、生産活動におけるどのようなデータを収集し、どのように分析して役立てるのかを検討します。

「まずはデータを収集してみる」といった目的が明確であれば、例えば下図のような安価なIoTトライアル構成であっても現実的な選択肢となります。

安価なIoTトライアル構成の例
『安価なIoTトライアル構成の例』

こうした安価なトライアルの実施によって得られたノウハウは、本格的なIoT導入に向けて、他からは得難い貴重な財産となるでしょう。

IoT導入を例にとりましたが、それに限らずプロトタイプを「お試し」すること、つまりはトライアルを実施することは、IT導入の検討段階においても有効なのです。

トライアル実施を通して、IT側に求める要件を明確にするだけに留まらず、業務側の課題も認識し、IT導入と共に業務プロセスの見直しも実施することでIT導入の成功へと近づきます。

技術の進歩がトライアル実施を容易にした

IT導入を成功に導くためにトライアル実施が有効であるとお伝えしていますが、追い風として技術の進歩がトライアル実施を容易にした背景もあります。

分かり易い例は3Dプリンタの登場です。ものづくりにおいて試作への敷居を劇的に低くした存在です。

一方で、業務アプリケーション(ソフトウェア)開発においては、「ノーコード[2]開発ツール」や「ローコード[3]開発(超高速開発)ツール」の普及が急速に進んでいます。

こうした開発ツールは、専門知識をそれ程必要とせずに利用できる上に、定型的な業務の場合では機能単位なら数時間で動作する機能を作成できますので、開発者と利用者が合意を取るためのプロトタイプ製作に威力を発揮します。

『ICTイノベート』でも取り組んだことがある「コンテキサー(Contexer)」も「ノーコード開発ツール」のカテゴリーに入るソフトウェアです。(使ったのは主に「コンテキサー3」の時でしたが)

「コンテキサー4」
https://contexer.net/
(2024/10/8 引用)

加えて、クラウドサービスの普及もトライアル実施への追い風となります。サーバーなどのIT設備を購入することなく(環境構築もすることなく)、トライアル期間中だけ利用料金を支払えば良いのです。

クラウドサービスの活用については、利用者側のみならず開発者側にとってもメリットが大きいです。大手IT企業のように自前の開発設備を持たない小規模なIT企業や、個人のエンジニア(専門家)であっても、クラウドサービスを活用することでアイデアを具現化することが可能となり、IT利活用を望む企業に向けた提案を可能にします。

このような提案は大手IT企業よりも安価な内容かもしれず、利用者側としても選択肢が増えるメリットが加わります。

選択肢が増えると言われても、IT導入および利活用を長期的に見据えた場合、「運用や保守の面では大手IT企業のサポートを得たい」と考えるのが、利用者側としては自然な流れかもしれません。

その点では、IT導入を検討するためのトライアル実施の段階では、割り切って安価な機器や労働力で構築して実証実験を行ってみて、そこから得られた経験や知識を基に本格的にIT導入を進めると意思決定した段階で、大手IT企業と組むという考えもあります。

「開発ツール」や「クラウドサービス」などの技術の進歩は、トライアル実施を容易にしただけでなく、ある程度までは自力で取り組むことを可能にしたと言えます。

しかし、トライアル実施を検討したくても「どうしたら良いのか分からない」ことも多いのではないでしょうか。そんな時は外部専門家を活用するのも選択肢の一つです。

そして、外部専門家を選ぶにあたっては、貴社の企業環境を鑑みた上で貴社にとって「これならできそう」と思える企画を提案し、必要に応じて環境構築までオールインワンで支援してくれる外部専門家であれば、安価なトライアル実施に結び付きます。

この記事のまとめ

  • IT導入を成功へ導くためには、導入前にその目的を慎重に考え、テスト期間を設けて課題を把握してから導入する
  • トライアルを実施することは、IT導入の検討段階においても有効である
  • 技術の進歩がトライアル実施を容易にした